福島県会津若松市に本社を構える建設資材の販売・レンタル企業の有限会社ワシオ商会は、SNSで話題となった「赤べこバリケード®」の開発や、経済産業省の「健康経営優良法人(ブライト500)」に5年連続で認定されるなど、柔軟な経営手腕で注目を集めています。
なぜ、地方の建設資材会社が「社員の健康」と「働きやすさ」にこだわるのか。専務取締役の鷲尾一美さん(50)に、女性が活躍できる職場づくりや会社存続をかけた健康経営などについて伺いました。

■「おせっかい」こそ会社の責任。20年続く健康経営の原点
―「健康経営優良法人(ブライト500)」認定や健康事業所宣言など、健康経営に力を入れる理由を教えてください。
実は「健康経営」という言葉が世の中に浸透する前、約20年前から取り組んでいます。当時は特別なことをしている意識はなく、社員全員が健康診断を100%受けることや、二次検診の徹底、禁煙サポートなどを当たり前のこととして行っていました。 約10年前に外部のアドバイザーから「それは立派な健康経営だから、社外にも宣言して周知すべきですよ」と背中を押され、2019年に全国健康保険協会の「健康事業所宣言」を行いました。当初は「わざわざ宣言しなくても」と思っていたのですが、宣言することで社員の意識も変わってきました。
特にこだわっているのは「やりっぱなしにしない」ことです。健康診断後、二次検診が必要な社員には必ず受診させ、「医師の意見書」を提出させています。医師から「就業制限なし」「このまま働いて大丈夫」というお墨付きをもらって初めて、そのまま業務を続けられるというルールにしています。健康は個人の問題と捉えられがちですが、あえて「おせっかい」を焼くことこそが会社の責任だと考えています。
新たに2024年度から「血管年齢測定」、2025年度から「歯周病検査」を導入しました。特に歯周病は自分では気づきにくく、歯科医に行く機会も少ないため、会社負担で検査を行い、疑いがある場合は受診を促しています。
■禁煙と食のサポートが作る、心と体のゆとり
―建設業界というと喫煙率が高いイメージがあります。禁煙対策や生活習慣の改善についてはどうですか?
禁煙対策は苦労しました。以前はお客様も含め喫煙が当たり前の業界で、お客様がくわえタバコで入ってこられることも珍しくありませんでした。しかし10年前、現在の本社社屋を建てた際、思い切って屋内禁煙にしました。その後、2020年の健康増進法の改正を機に敷地内を全面禁煙としました。最初は言い出しにくかったのですが、法律改正も追い風になり、お客様にもご理解いただけるようになりました。 社員に対しては、禁煙外来の費用を年間2万円まで会社が負担したり、禁煙に成功したら報奨金を出したりしています。実際に禁煙に成功した人もいますし、現在喫煙している人も本数は確実に減っていますね。
食事面では、「置き型社食」を本社と会津、郡山の各レンタルセンターに導入しています。1品100円で栄養士が監修したお惣菜が購入できるシステムです。 導入の理由は、従業員の精神的な負担を減らしたかったからです。午前7時30分に店舗がオープンするので、早く出勤する社員も多く、「お弁当を作らなきゃ」というプレッシャーから解放してあげたかった。ご飯だけ持ってくれば、あとは会社で安くバランスの良い食事がとれる、という安心感を提供しています。
■女性が変えた職場の空気。制度と風土の両輪で支える
―現在は4人の女性社員がいますが、男性中心の職場でどのように環境を整備されたのですか?
象徴的な制度は「短時間正社員制度」です。現在フルタイムで働いている7年目の女性社員は、入社当時子どもがまだ小さく、フルタイム勤務が難しい状況でした。しかし「長く働きたい」という意欲があったため、パートや契約社員ではなく最初から正社員として雇用し、1日6時間勤務からスタートしました。子どもの成長に合わせて勤務時間を延ばし、現在はフルタイムで活躍しています。 また、不妊治療休暇(年間3日)も導入しており、実際に利用している社員もいます。
制度だけでなく、職場の雰囲気づくりも重要です。男性しかいなかった会津レンタルセンターに、初めて女性社員を配属しました。最初は周囲の男性社員も「女性が来て現場が回るのか」「どう接すればいいのか」と身構えていましたが、いざ一緒に働き始めると、職場の雰囲気が和みました。 女性社員を受け入れるために男女別トイレを導入するなどハード面の整備もしましたが、女性がいることで会話が生まれ、コミュニケーションが円滑になるというソフト面の効果が大きかったですね。
■「理由を聞かない」心理的安全性と有給取得率80%
―有給休暇の取得率も80%を超えているそうですね。休みやすい環境をつくる秘訣はあるのでしょうか。
高い取得率の理由は、昔から「休む理由を聞かない」という文化が根付いていることにあると思います。口頭でも「明日休みます」「いいよ」だけで会話が完結します。「なんで?」「どうしたの?」とは聞きません。 もちろん、法事や子どもの行事など、社員が自分から話してくれることもありますが、有給休暇は休む権利ですから理由は問いません。お互い様の精神が根付いているので、誰かが休んでも業務が回るようカバーし合う体制が自然とできています。
また、「時間単位年休」の導入も好評です。通院や子どもの急な呼び出しなど、1日休むほどではないけれど数時間抜けたいという場面で、男女問わず頻繁に活用されています。
■福島から全国へ。「赤べこバリケード®」が生んだ会社の自信と誇り
―全国的に有名となった「赤べこバリケード®」。なぜこのような商品を開発されたのでしょうか。
きっかけは、2年ほど前に他県の工事現場を目にしたことでした。宮城県には「むすび丸」、新潟県には「トッキッキ」といったご当地キャラクターの単管バリケードがあるのに、福島県にはなかったんです。「ないなら作ろう、福島なら赤べこだ」と思い立ち、社長と私でアイデアを出し、私がデザインを担当して開発しました。
本来は工事現場で単管パイプを通して使う資材なのですが、発売してみると予想外の反響がありました。SNSで話題になったことをきっかけに、一般の方が「インテリアとして飾りたい」と、1体8,800円という価格にもかかわらず商品を買いに来られたり、遠くは広島や京都から注文が入ったりと、全国的な広がりを見せています。 また、カプセルトイ(ガチャガチャ)になったり、お菓子のパッケージになったりと、建設業界の枠を超えた展開につながっています。
この商品のおかげで会社の認知度が上がり、採用面接でも「赤べこを見ました」と言ってもらえることが増えました。知名度のない小さな会社が注目されることで、従業員の自信やモチベーション向上にもつながっていると感じています。
■会社存続のための「ウェルビーイング」
―最後に今後の展望をお聞かせください。
今後は、少し弱いと感じている「運動」の分野を強化していきたいですね。「ふくしま健民アプリ」の活用などを通じて、楽しみながら運動習慣が身につくような仕掛けを作っていきたいと考えています。
私が健康経営にこだわる最大の理由は、「会社の存続」のためです。人口減少が進む中、会社が長く続いていくためには、そこで働く社員が心身ともに健康で、長く働き続けてもらわなければなりません。トップが「社員の健康は会社の責任だ」という強い意志を持たないと、取り組みは現場に浸透しません。これからも「Well-being(心身共に満たされた状態)」を追求し、社員一人ひとりが輝ける会社であり続けたいと思います。

■「保育所が決まるまで待つよ」が入社の決め手に
経理事務 原 貴子さん(35歳)
7年前、下の子が1歳で保育所が決まらず就職活動に苦戦していたのですが、ワシオ商会だけは「就労証明書も出すし、決まるまで入社を待ちます」と言ってくれました。最初は午前9時から午後4時の「短時間正社員」として入社し、現在はフルタイムで勤務しています。時間単位で有休が取れるので、子どもの発熱による早退や行事での中抜けもしやすく、社内に子育て世代が多いので「お互い様」という雰囲気があります。休む理由を聞かれずに済むのも、精神的にとてもありがたいですね。
■Uターン就職で叶えた「推し活」と「健康意識」
経理事務 小野木 愛姫さん(22歳)
一度県外で就職した後、実家のある会津にUターンしてきました。有休が取りやすいので、大好きなアーティストの「推し活」に活用しています。先日もライブのために有休をいただいて東京へ行ってきました。仕事を頑張りつつ、自分の好きなことにも全力投球できる環境が気に入っています。以前、歯科医院で働いていたことがあるのですが、会社で「歯周病検査」を導入したことには驚きました。会社全体で社員の歯の健康まで考えてくれる姿勢は、本当に素晴らしいなと感じています。
■子育て世代を支える社長夫妻の優しさと「100円のおかず」
赤井 理恵さん(45歳)
半年前に入社しました。中学生の子どもを持つシングルマザーで、子育てと仕事を両立できる職場を探していました。面接をしてくださった社長と専務のご夫妻の雰囲気がとても仲睦まじく、「何かあったらいつでも相談に乗るよ」と言ってくださったその温かい人柄に触れ、「ここで働きたい」と直感しました。生活面では「置き型社食」に助けられています。毎朝のお弁当作りが大変な時もありますが、ご飯だけ持ってくるすれば、おかずを100円で購入できるのは、経済的にも時間的にも大きな支えになっています。


有限会社ワシオ商会
事業内容:土木建設資材販売・関連レンタル
社員数20人(男性16人、女性4人)平均年齢43歳
〒965-0074 会津若松市町北町大字上荒久田字宮下45番地 Tel0242-24-6250 Fax0242-32-3184
会社ホームページ https://www.washio-aizu.com/