南相馬市で建設業を営む石川建設工業株式会社は、東日本大震災という未曾有の危機をきっかけに、社員の健康管理を経営の最優先事項に据えました。女性特有の健康課題に配慮した「エフ休暇」の導入や、DX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した柔軟な働き方を推進しています。
社員に寄り添った経営を実践する代表取締役社長の石川俊さん(65)に、取り組みの真意と今後の展望を伺いました。


■震災と原発事故で、社員の安全を証明するための健康経営
―健康経営に力を入れ始めた原点について教えてください。
一番のきっかけは、15年前の東日本大震災と福島第一原発の事故です。建設業は屋外作業が主となるため、当時は放射線への不安が社員の間で大きく広がっていました。
津波被災の復旧に伴うがれき撤去作業のさなかに原発事故が発生。24キロ先で黒い煙が上がるのを社員が目撃し、一旦会社を閉めて全員を避難させました。その後、業務を再開する際、「ここで働いても大丈夫だ」ということを社員本人だけでなく、ご家族にも説明し、安心してもらう必要があったのです。
そこで会社の健康診断を徹底し、当時は少なかったホールボディカウンターによる内部被曝検査も実施しました。事故後、早い段階で現場に戻った数名の社員からは数値が検出されましたが、半年後には検出限界値以下(Nd)となり、その後15年間、放射線による健康被害は一件も出ていません。「性別に関わらず、まずは健康診断を必ず受け、体調が悪ければ休みを取らせる」。そこから当社の健康経営はスタートしました。現在は、がん治療などを続けながら働く社員にも、有給や特別休暇を柔軟に適用し、最後まで働き続けられる環境を提供しています。
■人手不足の時代、一人の離脱は経営上の大きなリスク
―なぜ社員だけでなく、家族も含めた健康にこだわるのですか?
建設業界は慢性的な人手不足に直面しています。一人が欠けると、そのフォローには数人分の負荷がかかってしまいます。新しい人を採用しようと募集をかけても、最近は応募がゼロということも珍しくありません。
今いる社員に一日でも長く健康で働いてもらうことが、経営上の最重要課題なのです。社員本人はもちろん、ご家族が体調を崩せば看病などで欠勤せざるを得ず、生産性が落ちてしまいます。家族を含めて健康でいてもらうことが、結果として会社を守ることにつながるのです。
その思いはコロナ禍での対応にも表れました。マスクや消毒液が不足していた時期、独自のルートで調達して社員や家族に配布しました。さらに南相馬市や同業者にも提供し、地域全体の安全確保に尽力しました。こうした「社員を守る」という姿勢は、震災以前から続く当社の風土です。
■「生理休暇」を名称変更、女性が罪悪感なく休める環境へ
―独自の休暇制度「エフ休暇」の狙いを教えてください。
特に力を入れているのが、女性活躍推進の一環として2025年度から制度化した「エフ休暇」です。従来の生理休暇に加え、不妊治療、つわり、更年期障害など、女性特有の体調不良を幅広くカバーする休暇制度です。
「生理休暇」という名称では、特に男性上司には申請しづらいという声がありました。そこで「エフ休暇」という呼びやすい名称に変え、さらにクラウド上の勤怠システムで申請できるようにしました。
以前は口頭や電話で理由を伝える必要がありましたが、現在はアプリで申請するだけで済みます。理由は「エフ休暇」とするだけで詳細は問いませんし、月2日まで特別有給休暇として扱われます。この変更により、対象となる女性社員の取得率はほぼ100%になりました。「制度があっても使われない」という課題を、名称変更とDxで解決したのです。
■Dxによる「見える化」で、カバーし合える体制へ
―柔軟な働き方を支える仕組みについて教えてください。
休暇を気兼ねなく取るためには、業務の属人化を防ぐ必要があります。当社ではDxを推進し、勤怠管理や業務進捗をクラウド上で可視化しています。アプリで管理しているため現場への直行直帰も可能ですし、誰かが休んでいることもリアルタイムで分かります。これにより、自然と周囲がフォローに入る体制ができています。
社員からも「アプリ申請のおかげで、朝の忙しい時間に電話連絡をするストレスがなくなった」という声をもらっています。Dxは単なる効率化だけでなく、社員の心理的負担を減らすためのツールでもあると考えています。
■第三者の相談窓口を設け、心理的安全性が高い職場づくり
―職場環境づくりで心がけていることは何ですか?
産業医との連携を強化し、月に一度、社員が医師と面談できる機会を設けています。上司には言えない悩みやハラスメントの相談も含め、第三者の専門家に話せる場をつくることで、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐ狙いがあります。
また、当社には15年前に半年間の育児休業を取得した男性社員がいます。こうした実績の積み重ねが「お互い様」の精神を育んでいます。
2018年には「イクボス宣言」を行い、私自身が率先してワーク・ライフ・バランスを推進することを誓いました。制度を作るだけでは不十分で、それを使える「空気」を作るのが経営者の仕事です。「社員のキャリアと人生を応援し、私自身も仕事と私生活を楽しむ」姿勢を見せるようにしています。
■若い世代が希望を持てる会社へ、育休取得を推進
―今後の採用や人材育成について、具体的な目標を教えてください。
2025年度に策定した「一般事業主行動計画」では、5年間の具体的な数値目標を掲げました。特に注力するのが男性の育児参加です。「男性社員の育児休業取得率30%以上」「女性社員75%以上」という高い目標を設定しています。
また、定年制は設けているものの、実際には77歳の元役員を非常勤で再雇用するなど、ベテランも活躍しています。健康なベテラン社員に長く働いてもらい、若い世代へ技術を伝承していく。社員が安心して長く働ける環境こそが、企業の永続的な発展につながると確信しています。

■健康経営の取り組みを社員自ら提案
総務部主任 松本 恭子さん(42)
他業種から転職して5年目です。「エフ休暇」や勤怠システムの導入を提案しました。以前の名称や仕組みでは申請の心理的ハードルが高かったのですが、アプリで「エフ休暇」と選択するだけで済むようになり、女性社員の負担は劇的に下がりました。社長の意識が高く、時短勤務やテレワークなど柔軟な働き方を相談できるため、人生設計がしやすい職場だと感じています。
■朝の電話ストレスから解放された安心感
建築部主任 湯本 芳恵さん(40)
3歳と1歳の子育て中で、現在は時短勤務を利用しています。以前は、朝子どもが熱を出しても看病に追われ、電話連絡のタイミングを逃してしまうストレスがありました。今は夜中や早朝でもアプリで申請できるので、精神的にすごく楽になりました。Dx化で現場の情報共有もされているため、休み明けもスムーズに戻れる安心感があります。


石川建設工業株式会社
業務内容:総合建設業・一級建築士事務所
社員数:42人(男性34人、女性8人) 平均年齢53歳
〒975-0001 福島県南相馬市原町区大町三丁目30番地 Tel:0244-23-6117 Fax:0244-23-3611
会社ホームページ http://iskw-kk.co.jp/